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私、藤乃 夜舞(ふじの やまい)からの、ささやかな恐怖をお楽しみください

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 降霊   延命の湯   夢の終わり 

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藤乃 夜舞(ふじの やまい)

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その場が凍りついたような、奇妙な間ができた。
そして俺達に向けられたイタコの眼差しがみるみる憎悪に満たされていった。
どうやら悪意のある取材であることを悟ってしまったらしい。
カメラは一部始終を見逃すまいと唯一の大きなレンズでイタコと俺の様子を睨み続けている。
「それでは、お願いします」
血の気が引いて真っ青になったイタコを促す俺は、さながら死刑執行人といったところか。
また、少しの間があったのちにイタコは降霊を始めだした。

「う・・・うぅ・・・っう・・・」
幾ばくかの沈黙の後、突然、呻き声のような嗚咽をもらしたイタコが前のめりに突っ伏した。
その場の誰もが目の前で何が起こっているのかを把握できなかった。
演出かとも思ったのだが本当に様子がおかしい。
数分の間、その様子をカメラに収めていたカメラマンが急に叫んだ。
「おいっ!こりゃ本当にやばいぞ!」

医者が駆けつけてイタコを診ている間も、時折、イタコの体は痙攣をおこしていた。
「極度の緊張に耐え切れなかった為に起こった発作」というのが医者の見解だ。
精神安定剤と睡眠薬を投与されて眠るイタコを撮っていても仕方がない。
今日のところは宿に戻って明日以降の撮影にそなえる事になった。

そして静かだった夜が明けると、宿の近所がやけに騒がしくなっていた。
窓から通りに目をやるとパトカーや他局の撮影班の姿が多数見える。
その中には俺達のスタッフも混じっている。

階下に降りると女将と話をしていた2人組みの男が俺の姿を認めて近寄ってきた。
県警捜査一課の刑事だと名乗った男に何事なのかを聞いた。
宿から百メートルも離れていない場所で若い女性の死体が発見されたらしい。
遺体の様子から殺人事件と断定された捜査が始まっており、死体発見現場周辺の昨晩の状況を事情聴取をしているそうだ。

一頻りのアリバイの確認と情報を聞き終えた刑事が席を立ったのを見計らって、1人のスタッフが近寄ってきた。
「今、の刑事さん?俺達も怪しまれてるんですかねぇ?まだ俺のところには来てないんすけどね」
怪しむも何も、死体の発見現場の直ぐ傍に宿をとってるのだから事情聴取するのが当り前だ。
「なんかねぇ、仏さん、酷い状態だったらしいっすよ。腹を割かれて内蔵を持ってかれちゃったんですって」

なんだ。
ちゃんと降霊できてたんじゃないか、イタコの婆さん。

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