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私、藤乃 夜舞(ふじの やまい)からの、ささやかな恐怖をお楽しみください

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藤乃 夜舞(ふじの やまい)

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最初は俺のバァちゃんを降霊してもらう。
もちろんバァちゃんが向こう十年ぐらいはピンピンしてると思えるぐらい元気なことは語らずにだ。
他のお客と同様に「亡くなったバァちゃん」の情報を提供するが、もしもイタコの能力が本物ならば失敗するだろう。
そして口寄せが旨くいっても旨くいかなくても俺は婆さんの手をきつく握り締めて涙ながらに、こう言うのだ。
「本当に、ありがとうございました!」

そして、もう一人会いたい人がいると再び口寄せを依頼する。
会いたい人というのはプロデューサーより渡されたリストから俺が気分で選ぶのだが、このリストがまたなんとも悪趣味だ。

いずれも未解決事件の犯人ばかりが列挙されている。
つまり、この企画は未解決事件の犯人を降霊して霊界からの自白で事件を解決してしまおうって企画なのだ。
たとえ解決できなくても『口寄せなんて嘘っぱち!決定的証拠を撮った!』とブラウン管に踊るタイトルが目に浮かぶ。

しかし犯人が誰だか判らないから未解決事件なのではないのか?
確かにそうなのだが、こういった事件じゃ人相書きなどから例えば『キツネ目の男』などといった犯人を示す呼び名やあだ名があったりもする。
しかもリストは直近の事件でも百年は前の、つまり犯人はもう死んでいるであろう事件ばかりが並んでいる。
イタコは、犯人が生きているから降りてこないといった言い訳ができない。

まことに念入りなことだが、だからこそプロデューサー氏は今の地位を築き上げることが出来たのかもしれない。

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少し人とは違うおもむきのプロデューサーの企画で陸奥むつまでロケに来ている。
イタコに『口寄せ』をさせて、その一部始終を撮るのが目的だ。

「なぁなぁ、口寄せって本当に霊が降りてきてると思うかぁ?」
俺にとっては霊が降りようが降りまいが、どうでもいい話である。
しかし彼にとっては特集番組の企画にしたいほど魅力的な題材らしい。
「事前にいろんな情報を教えてるんだろ?そんじゃ、それらしい事も言えるだろよ」

彼の言うことにも一理はある。
氏名・生年月日・出生地・
享年きょうねん・没した場所・死に様などの基本的な対象の情報と、降霊の前に与太話でもして仕入れた故人の趣味や生前の行動といった情報を使えば目の前で涙目になって座っているお客とも、それらしい会話が出来そうだ。
都合が悪くなれば降りてきた霊にお帰りいただけばいいことだしな。

しかしカメラの前で歴史と由緒のあるイタコを八百長だと晒そうとする、この悪趣味なプロデューサーの神経には正直なところ付き合いきれない感がある。
だがフリーのレポーターの俺が、数字(視聴率)を取れる番組を幾つも手掛けた名うてのプロデューサー様の言うことに逆らえるはずも無い。

撮影予定現場には夕闇が迫る頃に到着した。
みんな移動で疲れているし時間も時間なので、明日の朝からのロケにしようと言ってみた。
本当は俺自身がゆっくりと休みたかったからなのだが。

俺の提案は薄闇の作り出す「いかにも」といった雰囲気に魅了されたスタッフ達に、いともたやすく打ち消されてしまった。
そして予めアポをとっていたイタコに連絡をとりロケが開始された。

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